320248 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

カンダハルはゴースト・タウン

                     ≪九月二十六日≫      ―爾―

  人間の力を寄せ付けないような大自然の中に、一本の白い線が真っ直ぐ伸びている。
 ここアフガニスタンは、北方でソ連と言う大国と国境を接している。
 ソ連との国境を持っているという事だけで、どれだけ多くの国が苦しめられてきた事か。
 モンゴル・中国・インド・パキスタン・ネパールそしてトルコ、東欧諸国からフィンランドに至るまで、長い歴史の中ソ連と言う大国に脅かされ続けてきた。

 それがために、自由主義社会の大国であるアメリカの援助も、数多く行われてきた事も確かである。
 ある記録にはこうも書かれてあるそうです。

 ”アジア・ハイウエーは、東はベトナムから西は東ヨーロッパへ続いているが、面白い事に、この一本のハイウエーには、目に見えない白い一本の線が引かれているのだそうな。北半分がソ連と言う大国が、南半分はアメリカと言う自由主義の大国が、手を握り合い、周りの当事者である国々の事情などお構い無しに押し付けられたものだと言うのだ。だから、この細いなんでもない舗装された道は、世界を二分する二大大国の思惑が詰め込まれているのだそうな。”

                      *

  南の方では、駱駝の群れが見えてきた。
 一こぶ駱駝だ。
 北の岩だらけの山肌には、山羊の群れが見えている。
 駱駝の群れから、一頭の駱駝が群れから抜け出してきて、ハイウエーに駆け上がると、我々の乗っているバスに向かって突進してくるではないか。

 バスは”ブー!ブー!”と、警笛を鳴らしながらスピードを落とし始めた。
 自爆テロか???スピード違反を取り締まっているのか??
 駱駝は、バスのすぐ前まで来ると、威嚇の目的を果たしたのかハイウエーを降りていった。
 あの大きな駱駝を目にすると、オンボロバスなんか吹き飛ばしてしまいそうな勢いである。
 その駱駝の群れを、四五人の現地人が、棒切れ一本で操って移動させていく。
 その中には小さな少年の姿も混じっている。
 そうかと思うと、いつの間にかジッと走るバスを眺めて、道端に座り込んでいる老人の姿も見える。

 ・・・・っと、バスの横っ腹辺りで、”ガツン!”と言う音がした。
 どうやら、誰かがバスに投石したらしい。
 現地の人達も、駱駝さえもこのオンボロバスに敵意を見せているようだ。
 ひょっとして、窓ガラスにでも投石が直撃していたらと思うとゾッとする。
 それでもバスは、何もなかったように走っていく。

 飽きずに外を眺めていても、家らしきものを探すのに苦労する。
 そうするうちに、大きな黒いテントが一箇所に集まらず、散らばって四つほどのテントが見えてきた。
 一つのテントに一家族が生活をしながら移動しているのだろう。
 そんな果てしなく続く砂漠の中をバスは快調に走っていく。

                    *

  バスはカンダハルに向かっている。
 南に進路を取っている。
 北周りもあるのだが、地形も悪く治安も悪いとのこと。
 北周りのマザーシャリフと言う街には、世界的にも有名な壁像も見られるという事だが、賊が時々出没すると言う噂も聞き、安全なルートを選択した結果南周りをバスは走る。

 アフガニスタンの中で、砂ばかりの砂漠地帯はカンダハルの南にあるという。
 パキスタンとの国境を接している地域だ。
 そのカンダハルに向かってバスは走る。
 真っ直ぐな道をどれだけ走ろうと、バスから見えてくる景色は、どれほども違った景色を見せようとはしない。
 そんな景色を、飽きもせず見ている自分を私は、バスの外から興味深く見ている 自分に気づくとフッと我に帰る。
 そんな事を繰り返しながら、何時間も時が過ぎて行く。

 バスの中の旅行者は四五人。
 皆、バスの後ろの方に座っていて、皆汚い格好をして座っている。
 その中に俺もいる。
 前の方に座っている現地の人達は、そんな我々を見つけると、後ろを振り向きジッと睨みつけてくる。
 嫌、決して睨んでいるのではないのだが、俺には睨んでいるように見えてくる。

 そんな思いを何度も繰り返しながら、八時間かかってやっと街らしい街にバスは入っていく。
 午後3時。
 どうやらバスはカンダハルの街に到着したらしい。
 どうやらここでバスを乗り換えるらしい。
 いつも、らしいだ!
 何も説明がないからだ。

 バスが停まり、乗客たちが降りていく。
 荷物をバスの屋根から下ろし、シュラフを抜きとり夜に備えることにした。
 カンダハルの街は、昼過ぎだと言うのに、砂嵐が舞っていて、まるでゴースト・タウンの様相だ。
 バスを降りると、子供が一人近づいてきてなにやら売り込んできた。
 よく見ると、氷の入った水だった。
 それを一つ買って、乾いた喉を潤す。

 暫く時間があるので、近くにある果物屋に顔を出す。
 店先に行くと、地べたに萎んだ果物が並べられている。
 並べられていると言うより、放り出されているといった方が良いだろう。
 乾燥した中、一日中地べたに置かれているものだから、あのみずみずしかった果物の水分がほとんど吸い取られているから、美味しそうな果物がほとんど見当たらない。

 果物の周りを、蝿や蜂がブンブンと飛び回っている。
 店番をしているはずのおじさんは、気候のせいか客が一向に現れないせいか、気持ち良さそうに船を漕いでいる。
 
       俺「おっさん!おっさん!客だよ!」

 何度か日本語で叫ぶと、おっさんはフッと我に帰り、”人がいい気持ちで眠っていたのに、起しやがって・・・・・!”と言う感じで目を覚ます。
 なんとも暢気な商売人だ。
 おっさん、こんなゴースト・タウンみたいな所で商売していて、生計はたっていくの・・・・と心配してみてもどうしようもない。

                        *

       俺「まさか!!!このバスに乗り換えるの???」

  そんな呟きが出てくるほど小さなボロバスがやって来た。
 一つの救いをあげるとしたら、窓ガラスが割れていないことだけだろうか。
 荷物を屋根の上へくくり付け、一番後ろの左側に席を確保する。
 イスは木の板のうえ、混んで来ると五人掛けのイスに七人も座らされる始末。
 バスが出発する前に、チケットの確認を始めたので、チケットを見せると、助手のおっさんが何やら喋り出した。

       おっさん「この切符は、ここカンダハルまでのだから、へラートまで行くのならチケットを買え!」

 どうやら、そうらしい。
 騙されたのか、最初からそういうつもりだったのか?
 でも俺は、マスターにはへラートまでと言ったはず。
 他の旅行者達も何人か、この手口でやられたようで、不足の110Afg(800円)を支払う事になってしまった。
 なかなかチケットを渡さなかったから、きっとそうだろうなと思っていたのだが、現実になってくると・・・腹が立ってくる。

 金額にして、800円(とは言え、日本での価値で見れば、数千円にはなる。)程のものだが、騙された事実だけが残っていて、アフガニスタンの国に対する思いが崩れてくる。
 あの親切安売りしてきたモンゴル系の顔を思い浮かべると、悔しくなってくる・・・・・が、悲しくなっても来る。


                     



© Rakuten Group, Inc.